電解水透析をより詳しく解説
このページは、医療関係者向けの専門的な内容を含んでいます。
■ 概要---はじめに---
我が国の血液透析は、世界で最良の成績を達成しているといわれています。これには本邦の高度な医療技術が大きく貢献してきたのは明らかですが、一方で治療の限界も見えてきました。残念ながら、透析患者の主な死因である脳心血管病や感染症は依然として抑制できていない現状があります。
この原因は、複合的ですが、近年の研究で、慢性の炎症や酸化ストレス障害といった透析患者に共通する病態が深く関っている事実が明らかにされてきました。
これに対し、様々な治療対策が試みられているものの決定打には至らず、新しい治療法の確立が切望されています。
既出の通り、血液透析療法は水を大量に使う治療法です。
そこで、私たちは全く新たなコンセプトに基づく治療手段として、その「水」に着目してきました。水を変えることで、血液透析システムの生体適合性を向上させることができると考えたのです。
近年の研究では、水素ガス(H₂)が抗酸化性を有する事実が明らかにされています。
我々は、水の電気分解技術を利用してH₂が溶存する透析用水を安定的に供給する透析システム(電解水透析)の開発を行い、さらに、短中期の臨床検討にて本システムの臨床的な有用性を観察してきました。
私たち「電解水透析研究会」は、この課程の中で設立され、本システムの科学的な検討を行っているものです。
■ 電解水透析の仕組み
一般的な「血液透析」では、尿毒症性毒素( uremic toxin )に汚染された血液を対外に導き、その一定量の血液を人工腎臓とも呼ばれるダイアライザーに送ることで、「老廃物除去」「電解質補正」「過剰水分除去」を行い、血液をキレイにして体内に戻す方法がとられています。
この透析には、1回あたり約120ℓの透析液(=水)が必要となります。
透析液は、透析液原液または粉末をRO水で希釈して作られます。
従来の透析と電解水透析の違いは、電解水透析システムでは「電解水RO水」を希釈用の透析用水として使用している点にあります。
この電解RO水は、溶存水素を多量に含む「電解陰極水」をRO処理して作られるものです。
これにより、電解水透析システムで生成される希釈水や透析液には、一定の水素ガスが溶存するユニークな特性が付加されます。
(※「電解水透析」とは東北大学と日本トリムの共同研究です)
研究内容
■ 透析と酸化ストレス
透析と酸化ストレスのかかわり
現在、我が国における透析患者の平均余命は一般人口の約半分と短く、その死亡原因の56.8%は脳心血管病および感染症が占めます。
その原因として尿毒症自体に起因する、そして血液透析治療による炎症反応および酸化ストレスが大きく関与して動脈硬化を促進していると考えられています。
こう書くと炎症反応は悪い反応のように見えますが、炎症反応とは異物の挿入や細菌感染・科学的・物理的作用によって異物化した組織(障害された、壊死に陥った組織など)を排除しようとする生命の防御反応を意味し、生体生存のために必要な反応です。
透析治療は生体と非生体が接する治療ですから、必ずや非生体を異物と認めた炎症反応が生じます。
そこで、この炎症反応をできるだけ少なくする試みとして、生体適合性の良好な透析膜への改良(補体活性化や好中球・単球の活性化が少ない膜)や、透析液を清浄化し細菌やエンドトキシンによる汚染を少なくする試みなどが行われてきました。
酸化ストレスを軽減するために
それでもなお、組織障害の目安となるC反応性蛋白陽性例は透析患者の20~60%いると報告されています。
また、透析患者死亡率を減少させるために酸化ストレスや炎症を軽減する臨床研究もなされてきました。
脂質異常症の治療薬のスタチン投与、降圧剤であるアンジオテンシン変換酵素阻害剤やアンジオテンシン受容体阻害剤の投与、抗酸化作用のあるビタミンEやビタミンC投与などです。
しかし、効果があるという報告と・ないという報告がそれぞれあり、明確な治療指針となっていないのが現状です。
我々も少ない症例ながら、電解水を使った透析に変更後、掻痒感の減少、四肢冷感の改善、透析後の疲労感の軽減症例を経験しています。
電解水を使った透析によると思われる有害な反応は認めていません。
最近では、電解水に含まれる水素がヒドロキシラディカルと反応し、酸化ストレスや炎症反応を抑えることが透析患者で確認されてきました。
また、血圧を下げる効果があることも観察されています。
このように電解水を使った透析システムは、透析による酸化ストレスや炎症反応を軽減させ、これによる透析患者の脳血管病や感染発症を予防・減少させる可能性をもっていると考えられます。
多数例でのより長期間にわたっての電解水を使った透析の良好な結果が期待されています。
■ 電解陰極水とは?
「電解陰極水とは」
水は水素と酸素からできています。
イオンを含む水に電気エネルギーを与え、分子状水素と分子状酸素に分解することを水の電気分解(電解)といいます。
このとき、プラス極側には、酸素を含んだ酸性の水、マイナス極側には水素を含んだアルカリ性の水ができます。
さらに、水の中に陽イオンがマイナス極側へ移動し、陰イオンは逆にプラス極側へ移動します。このマイナス極側の水が電解陰極水です。
電解陰極水は、活性酸素種の代表格であるスーパーオキシドアニオンラジカル(O₂・-)を消去するSOD活性と過酸化水素(H₂O₂)を消去するカタラーゼ様活性を持つことが報告されています(Shirahata, S et al. Biophys Res Commun. 1997 234:269-274)。
また、電解陰極水は糖尿病誘発物質であるアロキサンによる培養細胞内の活性酸素種上昇を抑制することが報告されています(Yuping Li et al. Cytotechnology 2002 40:139-149)。
このように、電解陰極水には抗酸化性があることが分かってきています。
この電解陰極水をRO処理した水で透析液を調整し、その酸化性をルミノール試薬の酸化発光を指標として通常透析液と比較したところ、通常透析液よりも酸化性が低いことが分かりました(Nakayama, M et al.hemodialysis International 2007 11:322-327)。
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